亭主の独り言

脳梗塞になっちまった。 vol.15


 4月某日、突然右足に力が入らなくなり「あれ?どうしたんだろう?

 と、考えているうちに治ってしまいました。晩酌にビール中瓶一本を飲みいつものように早めに就寝。

 朝起きて鏡の前、「あれ?口が曲がってるよ。やべぇ脳がいかれたかな?」 焦って立った途端、

右の半身の感覚が無くなりズドンと倒れました。立派な脳梗塞です。

 救急病院に入院。「もう俺の人生も終わりだ」と「オイオイ」泣きました。

 悲しい物語はここまで。いつものあまのじゃくが始まります。2日目、ベッドの脇に立てと言われたので両足を下ろし介護の若い看護師の肩におずおず掴まりました。「何してんですか、ちゃんと抱きつかなきゃ危ないでしょ」

 「えっ良いんですか」心の中では「こらぁ役得だ」と喜んで思い切り抱きつきました。

一ヶ月の入院でなんとか杖をついて歩けるようになり、この頃には「こんな経験めったに出来る奴は無いな」と、自慢げに思えるようになりました。私は時々自分を第三者の立場になって観る癖があるんです。少し変ですかね。

  その後リハビリ専用の病院に移りました。理学療法士さんが「リハビリの目標を立てましょう」「はい、片手と片足でも着物を着て茶席に出て茶を飲むまでになりたいです」「えっそんな事言った人は初めてです。でも頑張ってみましょう」。
頑張りましたよ。三ヶ月後には杖無しで立って着物を着る事が出来たのです。リハビリの先生の工夫で帯の端をお尻の下にして片方を口で引っ張ったり。大成功でした。動画に録られ、今後の資料にされると言われました。

   退院後、世の中は変わっていました。もちろん辛い思いも有りました。が、何よりも周りの方々の優しさに驚きました。バスの席は譲って貰えます。コンビニに 行くと見知らぬ若者がドアを開けて待ってくれます。コーヒーショップで薬を飲もうとすると隣の方が黙って水を持ってきてくれます。

私は自分が健康な時に障害者に優しくしませんでした。その事を気にもとめませんでした。

恥ずかしい限りです。

私は一生懸命働いて、その結果病に倒れました。医療や介護の保護は遠慮なく受けます。ただ小さな親切でも「ありがとうございます」と大きな声でお礼を言う事にしています。その人と社会に対する礼儀です。

  私の店はテーブル席で楽に座れますが、入り口には石段が有り、トイレには健常者しか入れません。

 障 害者になって初めてわかる辛さが沢山出てきました。社会は経済不況。余裕はありませんが、思いきってバリアフリーの工事をしました。設計施工者は、半身不 随でも健常者より元気なバリアフリー設計専門家です。彼はまた車椅子に乗りながら、健常者に介護術を指導する超人でもあります。その彼が言いました。

 「脳梗塞の片麻痺が着物を着て正座しているのを見たのは初めてだ」

 向こうっ気が強く、でも本当は弱気な私を見に来て下さい。

2011年 7月吉日


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相原秀樹亭主・館長 相原秀樹

私儀恐縮ですが、私は一見難しい人間に見られがちですが、実は全然違います。
おしゃ
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